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▲▲にはじめて手紙を書きます。僕は最近「世界はうつくしいと」という詩を読みました。とても長い詩です。多分4人の中で一番長い詩を▲▲に選びました。長いから選んだわけではありません。▲▲に紹介したくなる程素敵な内容だったので、この詩を選びました。

 

 

世界はうつくしいと長田弘
 
うつくしいものの話をしよう。
いつからだろう。ふと気がつくと、
うつくしいということばを、ためらわず
口にすることを、誰もしなくなった。
そうしてわたしたちの会話は貧しくなった。
うつくしいものをうつくしいと言おう。
風の匂いはうつくしいと。渓谷の
石を伝わってゆく流れはうつくしいと。
午後の草に落ちている雲の影はうつくしいと。
遠くの低い山並みの静けさはうつくしいと。
きらめく川辺の光はうつくしいと。
おおきな樹のある街の通りはうつくしいと。
行き交いの、なにげない挨拶はうつくしいと。
花々があって、奥行きのある路地はうつくしいと。
雨の日の、家々の屋根の色はうつくしいと。
太い枝を空いっぱいにひろげる
晩秋の古寺の、大銀杏はうつくしいと。
冬がくるまえの、曇りの日の、
南天の、小さな朱い実はうつくしいと。
コムラサキの、実のむらさきはうつくしいと。
過ぎてゆく季節はうつくしいと。
さらりと老いてゆく人の姿はうつくしいと。
一体、ニュースとよばれる日々の断片が、
わたしたちの歴史と言うようなものだろうか。
あざやかな毎日こそ、わたしたちの価値だ。
うつくしいものをうつくしいと言おう。
幼い猫とあそぶ一刻はうつくしいと。
シェロの枝を燃やして、灰にして、撒く。
何ひとつ永遠なんてなく、いつか
すべて塵にかえるのだから、世界はうつくしいと。

 

 


僕は▲▲に対する印象と、この詩に対する印象に似たものを感じています。それはどちらも物事を俯瞰して見ているということです。説明するのは難しいですが、どこか冷静で、客観的で、中立的で、第三者的な目線があるということです。これは僕の印象なので、もし違っていたらごめんなさい。


僕がこの詩で好きなところは、物事を俯瞰して見たとき、最後には「あざやかな毎日こそ、わたしたちの価値だ」と、開き直り、強く前を向いて生きようとする態度が表現されていることです。▲▲は体育高等学校を卒業した後、日本への留学という大きな挑戦をしましたね。たくさんの悩みや苦労があったと思いますが、▲▲は前を向いて今を生きています。とても素晴らしいことだと思いました。僕は日本語教育を通して▲▲を全力で応援したいです。


「季節は過ぎていくものだ」「何ひとつ永遠なんてない」「人は老いていく」こうした事実を冷静に考えることができる▲▲はきっと、これからも充実した人生を歩むことができると僕は信じます。漢字をたくさん覚えたり、長い文章を読むのは大変ですが、時間があれば、何度かこの詩を読んでみてください。▲▲の留学生活が充実したものになることを願っています。